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最高裁判所大法廷 昭和36年(あ)1477号 判決

主文

原判決および第一審判決を破棄する。

被告人を第一審判示一ないし八の罪につき各罰金一〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

弁護人大川進太の上告趣意第三点について。

所論は、追徴の点に関する単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権により追徴の当否につき調査するに、アルコール専売法三七条後段は同法三四条一項三号の犯罪に係るアルコールの没収不能の場合における追徴につき規定するが、同一の犯則アルコールが数人の犯人の間に転々譲渡された場合、そのうちの一人が追徴金相当額の納付を命ずる通告処分を履行した後は、もはや他の犯人に対し重ねて右規定による追徴の言渡をすることは許されないものと解するを相当とする(関税法の追徴に関し、同趣旨の判示をした昭和三五年(あ)第一七七二号同三八年一二月四日大法廷判決、刑集一七巻一二号二四一五頁参照)。しかるに、本件アルコールについては、これを被告人に不法譲渡した犯則者川戸弥平治において、所轄の通商産業局長の通告処分により追徴金相当額の納付を命ぜられ、既にこれを履行したことが一件記録上明らかであり、右の事実は、原審もまたこれを認めるところである。

してみれば、本件アルコールに関し、アルコール専売法三七条後段により重ねて被告人に対し追徴を言い渡した第一審判決およびこれを是認した原判決は、右追徴に関する規定の解釈適用を誤つた違法があるものというべきで、原判決および第一審判決は、刑訴四一一条一号により破棄を免れない。

よつて、同四一三条但書により被告事件につきさらに判決をすることとする。

原審の是認する第一審判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人判示各所為は、アルコール専売法二九条、三四条一項三号、罰金等臨時措置法二条に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、所定刑中罰金刑を選択し、アルコール専売法三八条に従い各所為につき主文第二項掲記の罰金を科すべきものとし、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条に則り金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用の負担免除につき刑訴一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

検察官 平出禾公判出席

(裁判長裁判官横田喜三郎 裁判官入江俊郎 奥野健一 石坂修一 山田作之助 五鬼上堅磐 横田正俊 草鹿浅之介 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 柏原語六 田中二郎 松田二郎 岩田誠)

弁護人大川進太の上告趣意

第三点 弁護人は原審に於て本件アルコールは酒の醸造業者であり売主である川戸弥平治は己に同人に対するアルコール専売法違反事件において行政処分により取扱総量に相当する価額全部を追徴せられおりその追徴金中には本件のアルコールも包含されているから被告人に対してさらに追徴を命することは結局同一物につき二重の追徴を科することに帰し許さるべきでない」との主張を為したるに対して原審判決は右の事実を全面的に認定しながら「アルコール専売法第三七条第一項後段にいう「○○○○○○没収すること能わざるに至りたるとき」とは滅失したため没収不能となつた場合のほか処分により第三者の所有に帰したため当該犯則者より没収することができないようになつた場合をも包含するものと解すべきであるから川戸弥平治が行政処分による追徴金を納付したと否とに拘らず被告人自身その犯則に係るアルコールにつき価額の追徴を科せられてもやむを得無いから二重追徴を云々する所論は理由がない」と判示して第一審の追徴を科する判決を支持せられた。

然れとも弁護人の此点に関する原審における主張は没収不能の原因如何により追徴の可否を論するものでなく又本件アルコールが現物の没収が不能と為つたことを否定するものでない。

本件については其の現物が没収することができないようになつたので共犯者たる川戸弥平治から没収に代わる時価全部を追徴したのであり追徴の結果は現物没収と同様の目的を達成すると共に違犯者に対する懲罰の目的を達成したのであるから本件被告人に二重の追徴を科することは相当でない」と謂うのであります。

然るに原審判決が「アルコール専売法第三七条第一項の「没収し能わさるに至つたとき」とは滅失又は物が第三者の所有に帰したため没収不能となつた場合を問わす何れも同条の没収不能に該当するから川戸に追徴を科し己に納付したと否とに拘らず本件被告人に重ねて徴追を科しても止むを得ぬ」と説示し右弁護人の主張を斥けたのは前記の弁護人の主張に対する反駁として其の意を尽さない不備あるものと思考する次第である。

而してアルコール専売法第三七条第一項には「○○○○○○○○を没収すること能わざるときはその時価を追徴する」と規定するところを見れば若し現物が川戸弥平治又は本件被告人の手裡に存在せりと仮定せば其の現物を没収するの一途あるのみで何人からも追徴金を徴収し得ないことは明かである換言せば一聯の違犯者に対しては現物の没収か、時価の追徴か何れか一方の制裁を加ふるほかないのである、即ち此場合は現物の没収が原則で追徴は現物の没収不能の場合の代罰である、又た没収すへき物は一個の特定物であり追徴はこれに代わる補償的制裁であるから同一物について共犯者川戸から行政処分にせよ追徴を科しその納入を完了した以上最早共犯者たる本件被告人に重ねて追徴を科することは不当利得であり法の精神に反するものである。然るに原審が本件被告人に対しても重ねて追徴を科したのは法令の解釈を誤れる違法あるものと謂うべく当然原判決は破棄せらるべきものと信する次第であります。

以上の次第につき何卒御審議の上「原判決破棄」の裁判を仰きたく、右陳述致します。

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